アスペルガー症候群の人との接し方
【ひだち教室の教室長が解説「アスペルガー症候群」第5回】
前回までは、アスペルガー症候群の特徴を事例と共に解説しましたが、今回は接し方について解説します。
Contents
信頼関係を築くことに全集中!
自閉症スペクトラム障害(ASD)の程度は人によって違います。
その人の障害特性や性格、価値観などを加味した上で接し方を変えるのがベストです。
勿論アスペルガー症候群の人に対してもそうあるべきですが、こうした方が良いという共通する接し方があります。
ただ、信頼関係が構築されていなかったら実践しても効果は薄いので、信頼関係の築き方から書きます。
信頼関係を上手く築けたら、全てが良い方向に向かうといっても過言ではありません。
接し方だけを知ろうとせず、信頼関係の築き方も読んで頂ければと思います。
興味あることをメインに会話をする
アスペルガー症候群の人は言語能力が高く、コミュニケーションが成立しやすいです。
ストレートな物言いをする人やマシンガントークをする人もいますが、それだけ会話が好きということ。
会話は下記の効果が期待できるので、私は必ず会話をするようにしています。
・信頼関係の構築や維持
・心の安定
・自己開示がしやすくなる
このように書くと、会話をすることが責任重大と捉えて気が重くなる人がいます。
しかし、専門家でない限りはもっと気楽に捉えて欲しいです。
会話は雑談程度で構いません。話す内容に困ったら下記の3点をお勧めします。
・当事者の興味あること
・時事問題
・当事者の体験談
経験上会話が盛り上がりやすく、活き活きした表情をします。
逆に興味がないことになると、話題をふっても適当な返事をしてすぐに会話を遮断します。
ところが、信頼関係が築かれると他人が関心あることに関心を寄せられるようになり、会話が続くようになります。
根気よく会話をする機会をつくって欲しいです。
味方になる
アスペルガー症候群の人と信頼関係が築ければ非常に心強い味方になり、扱いやすく(関わりやすく)なります。
そのために、関わる人達(親含む)は「あなたの味方」であるという態度と言葉がけを当事者に示すこと。
示し続けることで、当事者からこの人は「自分の味方」と思ってもらえるようにします。
示す事柄は人によって違いますが、下記の3点は重要です。
1.価値観や決断に理解を示す
2.トラブルが起きても中立的な立場を保つ
3.悩みに対する具体的な策を提案する
理解(受容)するというのは、当事者自身の価値観や決断に理解を示すことを指します。
理解はささいなことも含まれます。例えば勉強スタイル。
・布団に寝ころびながら勉強をする
・音楽を聞きながら勉強をする
・学校で宿題(勉強)を済ませ、家では勉強しない
多くの親は勉強は机の前に座ってするものという考えを持っていることでしょう。
その考えを子供に押し付けないで理解(受容)するのです。
勿論全てを受容する必要はなく、肝心な事案なら親の意見を伝えることも必要です。
具体的な策を提案するのが難しくても、一緒に考えるという態度を示すことが大切。
もし有効な策を考えるなら、専門家の意見や分析を取り入れることをお勧めします。
人格と好きなことを否定しない
「人格否定」と「本人が好きなこと(人含む)を否定」は絶対にやってはいけません。
信頼関係を築くどころか、築く余地が一切なくなる可能性があります。
誰でも人格否定をされたら腹立たしいですが、自閉症スペクトラム障害(ASD)の人は負の感情に対する感度が非常に高い。
一般的にこの程度ならいずれ流せるだろうということでも、いつまでも心の奥底に残ります。
冗談でも人格を否定する発言はしない方が良いです。
好きなことというのは、単純に好きということではありません。
当事者にとって心の安定剤で特別なものです。
これらを否定すると「敵」とみなし、関わろうという意識が一気に失われます。
強い反発心も生まれて、敵対心むきだしの態度をとる人もいます。
実際、私が担当していたアスペルガー症候群の生徒は、小学生時代に「敵」とみなした先生対して徹底的に反抗したそうです。
一度信頼関係が崩れたら再構築には相当長い時間を要します。
専門家など第三者の介入が必要でしょう。
踏み込んだ接し方
信頼関係が構築されると当事者は相手の冗談を冗談として受け取れたり、ちょっとした悪態も流せるようになります。
また、注意を受けても「この人の言うことは正しい」という思考になり、素直に受け入れられます。
そんな信頼関係が構築された人にしかできない『踏み込んだ接し方』を解説します。
ストレートに伝える
アスペルガー症候群の人はストレートな物言いをしますが、周りの人もストレートに伝えることは必要です。
相手が傷つくような発言をしたとしても、当事者に悪気はありません。
だからこそ言われた側は自分が傷ついたことをはっきり伝えた方が良いです。
当事者を傷つけまいとオブラートに包んだ言い方や態度で示される人がいますが、気づきにくいです。
当事者にとって遠まわしな言い方や態度は分かりづらいので、ズバっと伝える方が理解しやすく学びに繋がります。
学べると次回は気を付けようという意識が芽生えますが、2つ注意点あります。
・感情的にならないこと
・どこが傷ついた言葉かを具体的に伝える
発達障害の人は定型発達の人よりも負の感情を強く捉えます。
感情的になって伝えると当事者は恐怖の方が勝ってしまい、せっかくの学びが記憶できなくなります。
自閉症スペクトラム障害(ASD)には*シングルフォーカスという特徴があります。
全体を説明するよりも、どのセリフで傷ついたかをピンポイントで伝える方が理解しやすいからです。
*シングルフォーカスとは、一つの事柄や部分に意識が集中してしまい、全体や複数のことを意識するのが困難な状態。
熟考タイプなので慌てさせない
アスペルガー症候群の人は熟考タイプが多いです。
問題が起きると、頭の中で色々な情報が飛び交ってどれが正しい選択か判断が難しくなるからです。
すぐに決断を迫られると頭の中でパニックが起こり、思考停止することもあります。
そうなると良い結果に繋がりにくいので、周りの人達は慌てさせない配慮がいります。
ただし、自分が得意とする範囲や過去に経験(成功体験)のあることならば、即断即決が可能です。
時間をかけても決断が出来なかったり、考えつかないこともあります。
・頭の中で情報を整理できない
・情報の取捨選択が出来ない
・他人を気にし過ぎている
・最善の一手にこだわり過ぎている
これらが理由として考えられます。
そういう時は選択肢をいくつか提示したり、メリットデメリットを一緒に考えたりすると、決断しやすくなります。
win-winな関係になる
自閉症スペクトラム障害(ASD)の人は新しいことや場所に対して不安になりやすいです。
しかし、信頼関係を築けている人(親以外)と一緒なら一歩を踏み出す勇気がわいてきます。
もし当事者が「○○さんとなら一緒に行ってみようかな」
と言って来たら、踏み込んだ接し方をするチャンスです。
ここで言う踏み込んだ接し方というのは、当事者のコンフォートゾーン(快適地帯)から引っ張りだすこと。
つまり、外に出て一緒に活動することを言います。
外に出て活動をすると、当事者と相手はwin-winな関係になりやすいです。
・知らない世界を知ることができる(当事者)
・自分の興味ある世界を知ってもらえる(相手)
当事者は最初こそ不安になりますが、徐々に知らない世界を知る楽しさに気づきます。
また、外に出ることで不安要素を少しずつ潰すことができるので行動範囲が広がります。
相手は自分の興味ある世界を知ってもらえるので嬉しくなり、接し方が変わります。
その変化というのは『優しくなれる』こと。
意識して優しくなるのではなく、無意識に優しくなれるので負担はありません。
そんな自分の変化に気が付く人は少なくないと思います。
新しい信頼関係の構築の仕方や接し方を発見すれば、更新していきたいと思います。
ひだち教室では、信頼関係が構築できないとお悩みの方にアドバイスをしています。お話しから子供の特徴等を分析し、実践できそうな構築方法を提案致します。
※全てのアスペルガー症候群の人に有効というわけではありません。一般的に言われていることを踏まえつつ、私が実際見聞きしたことをご紹介しています。「アスペルガー症候群の人にはこういう人もいるんだ」という気づきのきっかけになれば幸いです。
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