アスペルガー症候群の対人関係の難しさ
【ひだち教室の教室長が解説「アスペルガー症候群」第3回】
>>>第2回 アスペルガー症候群のコミュニケーションの難しさの記事
自閉症スペクトラム障害(ASD)の3大特徴の1つに『対人関係の難しさ』があります。
今回はそれをより具体的に、事例を踏まえながら解説します。
アスペルガー症候群の対人関係の難しさ
《一般的に知られている自閉症スペクトラム障害(ASD)の特徴》
・場の空気を読むのが出来ない
・相手の気持ちや理解が難しい
・社会的なルールを無視するような行動・言動をとる
と言われています。
しかし、私は長年生徒達と関わっていて感じるのは、一般的に言われていることと真逆。
《現場で感じる自閉症スペクトラム障害(ASD)の特徴》
・場の空気を読める(読もうとする)
・相手の気持ちや理解ができ、分析できる
・社会的ルールを守る
特にアスペルガー症候群の人達の場合は当てはまらないことがよくあります。
しかし、問題がないかと言えばそうではありません。
時折「おいおい」とツッコミを入れたくなるようなこともよく見かけます。
自分なりに場の空気を読む
場の空気を読むというのは、目の前にある状況(情報)等を総合的に捉えて理解することを指します。
多くのアスペルガー症候群の人は自分なりに空気を読むことができますが、その読み方がズレることもあります。
今から紹介するのはそんな事例です。
状況を踏まえた行動が難しいF君(当時高校生)を含む生徒達が寒い季節に宿泊活動をした時のこと。
京都府の山科駅まで宿泊所の送迎車が迎えに来ることになっていました。
予定時刻よりも1時間早く着いた私達は先に夕飯をとろうという話になりました。
集合時間を決めて男子グループ(5人)と女子グループ(5人)に別れて夕食をとることに。
女子グループは寒いということもあって、近くの牛丼屋に早々に入店。
一方男子グループは話し合うもののなかなか決められず、辺りをウロウロしだしました。
F君:「なかなか決まらんな~」15分ほど経過してようやく口を開きます。
E君:「もう寒いしはよ決めようや~」
風が吹いてきたこともあって、E君は腕を抱えて震えていました。
F君:「送迎車が早く来るかもしれないし・・・コンビニ弁当でいいか!」
集合時間まで残り45分。
F君は時間が気になってソワソワしており、若干投げやり感のある言い方でした。
まさかのF君の判断に反論するE君。
E君:「え?寒いし、店の中で食べようや~」
F君:「早く食べないと集合時間に間に合わないしコンビニでいいやろ?」
E君以外の生徒達(自分の意見を言いにくいタイプ)も同意し、寒空の中ベンチに座って弁当を食べました。
食事を終えて帰ってきた女子グループは、その様子を見て「あほや」とあきれ顔でポツリと呟きました。
後日の反省会で、私はF君に寒空の中コンビニ弁当を食べたことは正しい判断だったのかと問いました。
すると、
「そこまで俺は寒くなかったし大丈夫だと思った」
「みんなお腹を減らしていたから、急いで決めないといけないと思った」
「集合時間に遅れるわけにはいかないから、すぐに食べられる弁当が良いと思った」
皆さんはF君の判断・行動をどう思いますか?
F君なりに場の空気を読んでの判断・行動だったようですが、読みがズレてしまったと言わざるを得ません。
一見、F君は他者のことも意識しているように思えますが実は違います。
F君の判断材料は『寒くない』『お腹が減っている』『集合時間に遅れる』といった自分に関わることだけです。
他者であるE君の状態(寒がっている)や周りの人達の状態を判断材料にするという意識がありませんでした。
E君の状態だけで判断するならば、おそらく正しい判断ができたと思います。
しかし場の空気を読むとなると、他のことも意識する必要があります。
・自分や他者の状態
・時間
・場所の雰囲気
F君にとっては情報過多になってしまい、自分以外の情報が抜け落ちてしまったのでしょう。
そこで私は一つの判断基準をF君に教えました。
「自分と他人の健康を第一に考える」
それから数年後、再び似たような場面がありましたが、F君は同じ判断(寒空の中の食事)をしてしまいました。
しかし、食事中にF君は「この判断は間違った」と猛省していました。
前回は判断の誤りに気が付いてもいませんでしたが、今回は気が付いたので成長したと言えますね。
社会的ルールを順守し過ぎる
自閉症スペクトラム障害(ASD)のある人たちは、基本的にはルールを守る人が多いです。
むしろルールを順守するあまり、周りの人達をイラつかせることもあります。
外での活動中に、決まり事をしっかり守るL君(当時中学生)が行ったお話し。
私達は時間に追われていて、一刻も早く昼食をとる必要がありました。
皆小走りで急いでいると、道路が目の前に出現。
幅が車二台分ほどの道路を渡った先には、お目当ての中華料理屋があります。
私達は左右を確認した上で、一斉に道路を渡りだしました。
ところがL君だけは渡らず、あさっての方向へ走り出しました。
私:「どこ行くん!?」
L君:「横断歩道を渡ります」
200mほど先にある横断歩道を目指して走っていたのです。
私:「いやいや、別にこの程度の距離なら横断歩道を渡らなくてもいいやん」
L君:「交通ルールで決まってるから!」
他の生徒達:「渡れよ~」「なにやってんねん!」「急いでや」
生徒達はイラつきながらL君を待ちました。
車が全く通らない道路でしたが、L君は交通ルール順守しないと渡れませんでした。
L君がとった行動は決して間違いではない。
でも、世の中にはケースバイケースというものが存在します。
L君はそれが理解できず、その結果他の生徒達をイラつかせてしまいました。
その後L君は課外活動を通して、物事にはケースバイケースがあるということを学びました。
少しずつですが、柔軟な行動をとれるようになってきています。
人によって態度が極端に違う
自閉症スペクトラム障害(ASD)のある人は0か100の世界で生きています。
その両極端な思考は対人関係にも表れることがあります。
・尊敬できる
・自分を理解してくれる
・人として素晴らしい
自閉症スペクトラム障害(ASD)の人は上記に該当する人間に対しては、非常に心強い味方になります。
そして扱いやすくもなります。
逆に下記のような人間に対しては徹底的に反抗的な態度をとり、扱いにくい人間へと化します。
・尊敬できない
・自分を理解してくれない
・人として失格
アスペルガー症候群の人は良い意味でも悪い意味でも、これらが顕著に表れます。
昔、気の強いタイプのNさんは私にこんな話をしてくれました。
Nさん:「僕は○○教授を尊敬している。だから、○○教授を信じ続ける」
私:「というと?」
Nさん「例え99人の人が黒と言っても、○○教授が白と言ったら僕も白と言う」
真顔で言うので、私は思わず苦笑いをしてしまいました。
私:「普段客観的に分析するのが得意なのに、えらい盲目的に信じるんですね」
Nさん「信じる。○○教授が言うことは何でもする」
Nさん「極端な話、もし○○教授が自分に死ねと言ったら死ぬと思う」
それを聞いて私はゾクっとしました。
人を信じることは良いことですが、そこまで極端に信じるのは心配です。
私:「△△教授にはえらい反抗的な態度をとりますよね」
Nさん:「あの教授は分かってくれないし、アホやしダメだ」
思い出すのもイヤなのか、吐き捨てるように言いました。
Nさん:「もし△△教授と言い争うことになったら、とことんやる。」
その時私は「極端過ぎる考えだな~」と流し気味に聞いていました。
しかしその後、他の生徒達から似たようなエピソードをいくつか聞きました。
決して稀有な思考ではないですね。
私自身が生徒達から尊敬されているかは分かりませんが、生徒を理解し続ける人間でありたいと思います。
第4回はアスペルガー症候群のこだわりと興味の狭さを具体的に、事例を踏まえながら解説します。
※紹介しているエピソードは、全てのアスペルガー症候群の人に当てはまるわけではありません。一般的に言われていることを踏まえつつ、私が実際見聞きしたことをご紹介しています。「アスペルガー症候群の人にはこういう人もいるんだ」という気づきのきっかけになれば幸いです。
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