発達障害と中学受験~特性に合った環境とは?~

生徒には自分に合った学校を選んで欲しいと願うひだち教室長の安藤です。

12月6日に当事者講演会を開催しました。

テーマは『発達障害と中学受験』。

中学受験の経験がある大学生のK君に講師をお願いしました。

参加者が出来るだけ質問をしやすいよう、定員は少人数に設定。

それが功を奏し、多くの質問が出ました。

K君の中学受験とその後の話は実にディープ。

特別支援教育黎明期の話で、今では考えられないことばかりでした。

その中で印象的だったのが、人的環境を含む環境の大切さ。

・特性に合った勉強環境の重要性

・理解ある家庭教師との出会い

・生徒も保護者も予想だにしなかった中学校生活

・救われた高校生活

これらを中心に書いていきたいと思います。

自閉症スペクトラム障害(ASD)と中学受験

K君は発達障害の一つである、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されています。

しかし、小学生の時はまだ診断がおりていなかったために支援もなく、まだまだ無理解な人が多かったです。

K君の小学生時代は中学受験が流行り(?)の時代で、祖父の勧めで中学受験を受けることになりました。

今でこそ中学受験の大変さというのはよく知られていますが、当時はまだよく分かっていませんでした。

K君の祖父も親もそんな実情を知らず、K君に勧めました。

K君は乗り気でなかったそうですが、

「今頑張ったら後が楽になる」

という言葉が魅力的に感じて受けることを決意しました。

確かにエスカレーター式で進学できるので楽かもしれませんが、決して中学校生活が楽になるわけではありません。

自閉症スペクトラム障害(ASD)のある人の中には、「今頑張ったら後が楽になる」という言葉を拡大解釈して、勉強を含む中学校生活が楽になると信じ込む子供を何人か見聞きしたことがあります。

イメージしていたことと現実のギャップに苦しみ、中学校に適応できず、しんどくなる子供もいます。

K君も苦しんだ一人でした。

特性に合った勉強環境の重要性

中学校受験となると、ほとんどの子供は塾に通います。

K君も大手の塾に通いだしましたが、特性に合っていない環境のオンパレードで辛い経験をします。

・大部屋で大人数の中で授業を受けるので息苦しい

・聴覚過敏があるので、周りの鉛筆の音が気になって集中できない

・他の子供とギクシャクする

・全体的にピリピリした雰囲気なので気が休まらない

・一人一人に配慮した指導がなされない

このような環境故に、塾で成績が上がることはありませんでした。

また、成績が上がらないことで親子関係にも歪みが生じ始めました。

中学受験の恐ろしいところは、ストレスが溜まって心身が疲弊するだけではありません。

親子関係にも影響を及ぼすところです。

理解ある家庭教師との出会い

K君は成績が上がらなくてもがいていたので、塾とは別に家庭教師を雇うことなりました。

これが大きな転機になりました。

・マンツーマンレッスン

・K君は理屈で理解して学ぶタイプだと気づいてくれた

・塾で学んだところを復習するやり方に徹した

発達障害のある人全般に言えることですが、マンツーマンレッスンor先生1:生徒2というレッスン形態(環境)は、特性上適応することが多いです。また、その子の認知特性に合った指導を受けやすいのが大きな利点。

K君の場合は家庭教師の人柄にも恵まれました。

家庭教師は凝り固まった考えの人ではなく、K君の学び方を見極め、それに即した指導を出来ました。

塾では理解できなかったところを、家庭教師に指導されるとスっと頭の中に入ったそうです。

おかげで算数の成績がみるみる上がって自信がつき、K君の理数系が得意になる礎となりました。

復習と予習どちらがいいのか?

時折保護者から、「復習と予習どちらが良いのでしょうか?」と訊かれます。

基本的にはその子によると私は考えますが、現時点では予習の方をお勧めします。

K君の場合は復習が効果的でしたが、予習の方が効果的と感じる生徒を多く見てきたからです。

・予習をしているので、学校等で教えられた時に理解しやすい(定着する)

・他の子供が知らない中で自分は知っているので、自信がつく

・見通しを持って授業を受けられるので心にゆとりを持てる

特に見通しを持って授業を受けられるというのは、自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性に適しています。

生徒も保護者も予想だにしなかった中学校生活

見事第一志望に合格したK君。

合格した瞬間は嬉しさよりも、「やっと終わった」「これで楽になれる」。

安堵の気持ちでいっぱいでした。

ところが、中学校生活はK君にとっては新たな苦しさの始まりでした。

・自動的に進学コースに振り分けられた

・路線図が読めない

・軽いイジメに合う

高校受験のための進学コースに振り分けられたため、授業は毎日18時まで。

視機能の問題か認知特性上なのかは判断できませんが、路線図が読めないことで学校から家に帰るのに苦慮しました。

レベルの高い学校でもイジメは起きます。K君はそのターゲットにされました。

「今頑張ったら後が楽になる」どころか、ますますしんどい環境下に身を置く事になったK君。

その結果、不登校に陥ることになりました。

環境がK君の特性にあまりにも合わなかった。

せめて進学コースに振り分けられなかったら、違った人生を歩んでいたのかもしれません。

救われた高校生活

高校はエスカレーター式で上がることができたK君。

K君は高校生活を送る上で何かを変えなければと思い、行動を起こしました。

・似たような雰囲気の人に声をかけて友人になる

・友人と共にゆるい雰囲気のパソコン同好会に所属する

・部長に任命される

・後輩の存在

意図していない部分もありますが、K君にとっては最高の環境が作り上げられました。

心がしんどい時に強制的に頑張らせられる雰囲気があると、より深みにはまります。

K君はゆるい雰囲気のクラブや同好会を探したというのは賢い選択だと思います。

部長に任命されたこともK君の特性にマッチしました。

というのも、K君のようなタイプは自由にできる環境が自分の強みを発揮しやすかったりするからです。

能力を上手く発揮されるから後輩から慕われる→頼られる機会が増える→自己肯定感が高まる

といった理想的なサイクルが作られました。

偶然の要素はあったかもしれません。

しかしそれは偶然ではなく、K君自ら人的環境を作り出したのが大きな要因だと私は分析します。

つまり、勇気を出して似たような雰囲気の人に声をかけて友人を作った。

これが全てだと思います。

波乱万丈の道を歩んだK君。

特性が環境に適しているかどうかで、学びやすさや生きやすさが極端に変わった。そんな講演会でした。

発達障害のある我が子に中学受験を受けさせようと考えている保護者様。

塾や志望している中学校は、その子の特性に合った環境でしょうか?

どうか今一度調べ、考えていただければと存じます。

ひだち教室では受験のための学習指導は行っていませんが、その子に合った学び方や環境についてのアドバイス、メンタルサポートを行っています。

活動に関するご質問、お問合せもお気軽にどうぞ。

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