経験から学ぶ旅~生徒の失敗とは?~
今更ながらドライブ好きになったひだち教室長の安藤です。
非常事態宣言が解除されてから最初の課外活動は、生徒(G君)との宿泊活動でした。
私とG君2人だけの京都府北部地域(舞鶴市)の旅。
活動中G君は、「一人で準備をすることの重要性」「お金の使い方の大切さ」を痛感した旅となりました。
そんなG君はこんな人!
G君(19歳):向上心の強い鉄道ファン。〈Tic Tokにドハマり中〉
Contents
舞鶴市を2人で旅することになった経緯
複数人で宮崎県と大分県を旅している時から、G君は私と2人っきりで旅をしたいと言っていました。
>>>大分県旅行の記事
>>>宮崎県旅行の記事
何故そんなことを言ってきたのか?
私とは長い付き合いで、強い信頼関係が築かれているのが大きな要因ですが、それだけではありません。
私はG君が生活をより円滑に送れるよう、G君に合った様々な課題をかしているのですが、向上心の強いG君にとっては課題を与えてくれるのがとても嬉しいようです。
グループ活動では、G君専用の課題や環境を設定することは難しいが、マンツーマンだとそれが可能。
G君はそのことを理解しているから、私と2人だけの宿泊活動を希望してきたのです。
「生徒の希望を叶えるのがうちの教室だ!やるぞ!!」
ということで、2人で宿泊活動をすることになりました。
ただ、活動をするにしても非常事態宣言が解除されたばかりで、他府県に行くことが難しい状況でした。
車が京都ナンバーということもあり、京都府以外は選択肢がなかったので、G君と相談した結果、舞鶴市に向かうことになりました。
何を学ぶ活動にするか?
生徒と外で活動をするにあたり、「学び」という様子は必須。
どんなことを学ぶのか。その「学び」の決め方は2パターンあります。
活動場所や内容を決めてから、何を学ぶかを決めるパターン。
子供の状態像を踏まえ、目的を設定した上で活動場所や内容を決めるパターン。
今回の活動は後者。
それはG君が過去に困った経験があるからです。
過去の失敗から今回の活動の目標(目的)を設定
宮崎県と大分県で旅行をしている時、G君は早い段階でお小遣いをあるだけ使ってしまいました。
そのため、予定のお土産を買えなかったり、帰りの電車に乗れないかもしれないという不安に苛まれました。
「どうしよう・・・」
G君はボソリと呟きます。
さらに、一人で旅行の準備をしなかった(親が準備をした)ために何が入っているかをちゃんと把握しておらず、
「○○は入れたん?」
「ふひゅぅ・・・」
私の問いに対してG君は苦笑いしかできませんでした。
そういった苦い経験があるので、スモールステップで失敗を経験しながら学んでもらおうと思いました。
今回の旅の3大目標を設定
今回G君に気づき、学んで欲しいことは3点。
・計画的なお金の使い方。
・自分で準備した時に何が抜け落ちるかを知る。
・非常時はICOCAを使う必要性を知る。
自立した生活を送る上で必要な『生活スキル』に直結します。
G君はお金の使い方やICOCAの使い方といったスキルは既に身に着いており、準備に関しても全く出来ないわけではありません。
しかし、もうワンステージ上のこととなると出来ていない部分があります。
G君は脳梁欠損症で知的に遅れもありますが、ワンステージ上のことを出来るようになるには、阻害要因をさらに深く考える必要があります。
その阻害要因というのが、
・実践する機会の少なさ(経験不足)。
・自己理解の低さ。
・イメージ力の低さ。
・ワーキングメモリー(短期記憶)の低さ。
・こだわり。
これら阻害要因にどのように向き合い、どのように付き合いながらワンステージ上のことを出来るようになるか。
G君の場合は失敗経験というのがカギとなっています。
あえて失敗経験をしてもらう旅
障害児・者には「成功体験が必要!」「成功体験しかさせてはダメ!」。
そんな声を聞いたことがあります。
確かに成功体験は必要ですが、「成功体験しかさせてはダメ!」という考えには異論があります。
失敗経験から学ぶ人もたくさんいて、G君もその一人。
G君は一度失敗した方が腑に落ちやすい(アドバイスを受け入れやすくなる)タイプです。
そういうタイプは、次回の活動では同じ失敗を繰り返さないよう意識が高まり、アドバイスを受け入れ、自分なりに対策を講じます。
それは人としての大きな成長ではないでしょうか?
失敗経験は必ずしも悪ではないのです。
さて、意図的に失敗経験を積んでもらおうとすると環境設定が重要です。
そのためには、G君をとりまく環境(人含む)調整とルール設定をする必要があります。
今回は下記の3点を調整、設定をしました。
・親やグループホームの世話人に、薬以外は一切準備の手伝いをしないようにお願いする。
・お小遣い(飲食費含む)は少なめに設定。
・緊急時はICOCAを使うというルールを設定。
どういう態度や言動、反応を示すのか楽しみです。
宿泊活動開始
土曜日の夜に出町柳駅で合流し、車で教室のある大津市へ向かいました。
いつもなら教室に着くとすぐに近くの銭湯で入浴するのですが、コロナ騒動もあるので、今回はグループホームで入浴してきてもらいました。
教室で一息ついてから、さっそく明日の行程を考えることに。
終了時刻は決まっているので、それ以外はG君の判断。
行先は舞鶴市ですが、そこで何をするかも決まっていないので、G君はスマホで調べながらザックリとした行程表を作っていきました。
私と意見を交わしながら、約1時間かかって完成。
明日の準備をしてから、さあ寝ようという段階になって、突然G君は
「あっ・・・」
と小さな叫び声をあげました。
全てが狂い始めたエピソード
G君はスマホの充電ケーブルを忘れたことに気が付いたのです。
モバイルバッテリーは持ってきていましたが、肝心のケーブルをすっかり忘れていたようです。
G君はアンドロイドで、私はiPhone。
ケーブルの規格が違うので貸すことができません。
G君はグループホームに電話してスタッフに持ってきてもらおうとしたので、私は制止しました。
どうすれば良いか分からず、落ち着きがなくなったG君。
そこで私は選択肢を提示。
・高いけど近くのコンビニで購入する。
・舞鶴市の100均で購入する。
G君は考えた末、コンビニで購入しました。
充電できて安堵していましたが、その選択が後々G君の選択肢を狭めます。
私としても予想していなかった出来事だったので、今後の展開にワクワクとハラハラ半々の気持ちでした。
舞鶴市観光
舞鶴市でちくわ作りをする予定でしたが、非常事態宣言が解除されたばかりとあって、ちくわ作りはやっていませんでした。
他の体験は前日までに予約しないといけないので、何かを体験することは難しい状況。
そこで二人で話し合った結果、有名観光地巡りをすることになりました。
まずは五老スカイタワーへ行くことに。
スカイタワーまでの道のりは曲がりくねっているので、車酔いしやすい人は要注意。
それを乗り越えられたら「近畿百景第一位」に選ばれた景色を一望できるので、心が癒されます。
スカイタワーは有料で、少しでも高い所から眺めたい人には良いでしょう。
でも、スカイタワーの上から眺める景色と下から眺める景色は、それほど変わらないような気がします。
次に向かったのは舞鶴市の定番、赤レンガ博物館&赤レンガパーク。
舞鶴市にある赤レンガの建造物は、明治から大正にかけて造られました。
鉄骨とレンガを組み合わせた建築物としては、日本で最も古い建物です。
博物館内は色々な資料やビデオが展示されているだけでした。
歴史に興味のある人は楽しめそうですが、幼児は難しいと思います。
障害者手帳を使えて安く済むので、移動支援等の行先としては良いかもしれません。
そんな歴史を語る博物館をG君はササっと見終え、次の赤レンガパークへ向かうことに。
博物館のスタッフから地図を頂き、それを見ながら進めば5分ほどで到着します。
その予定でしたが、G君は見当違いの所へ向かいだしました。
地図の見方が分からなかったのです。
G君は赤レンガ博物館の周辺を右往左往し、15分以上経過しても辿り着く感じがありませんでした。
私は一度博物館に戻るよう指示し、現在位置を把握しやすくしました。
その上で、地図の見方を教えました。
大きなヒントとなるのは道路と博物館の位置関係。
するとG君はすぐに理解し、赤レンガパークに無事辿りつけました。
やっとの思いで着きましたが、G君にとって赤レンガパークは興味をそそるものがありませんでした。
しかし、軍艦やアニメ、食に興味を持っている人には十分楽しめる所です。
「艦隊これくしょん」というゲーム(アニメ化もされている)の聖地になっているようで、「日本のアニメ聖地88」の認定証が飾られていました。
ここに来るなら、一度「艦隊これくしょん」のアニメやゲームをしてからの方が楽しめるでしょう。
「艦隊これくしょん」に興味を持っている生徒が他にいるので、その子を連れてきたらさぞ喜ぶでしょう。
海上自衛隊の基地があるので、海軍カレーは鉄板ですね。
辛めのカレーなので、幼児には不向き。
店内は広々としているので、そこそこ落ち着いて食べられる雰囲気がありました。
帰りは一般道で帰るので時間に余裕がありません。
他の観光名所を巡ることもできず、帰宅の途につきました。
体験もできず、あまり楽しめなかったと思えるかもしれませんが、G君は満足していました。
「今度はいつやるん?」
と車内で聞いてくるほど。
では、何故G君は満足できたのか。
宿泊活動で学んだ事
今回の活動は、何か体験をして楽しむのを目的としている活動ではありません。
G君自身の成長を目的としています。
今回の活動で、G君は活動の準備を初めて一人でしました。
その結果、一人で準備した時に忘れてしまう物を初めて学べたのです。
今回で言えばスマホのケーブル。
ケーブルを忘れたことで、どれほど予定が狂わされ、不便を強いられたことか。
再び宿泊活動をした時は、リベンジ(忘れないようにする)をしようと意気込んでいました。
お小遣いは少な目だったのに1000円近くもするケーブルを購入したために、食事には随分困っていました。
昼前の時点で残金は1300円。これで昼食と夕食を賄う必要があります。
一般的な考えとしては、昼食650円、夕食650円という風に考えると思うのですが、
「200円ずつ使って海鮮丼食べる」
「昼500円、夜1000円にする」
「電車代もいるから昼と夜で500円にする」
と等と言い出しました。
あれ?っと思う人は多いでしょう。私も何度も「なんでやね~ん」と突っ込んでしまいました。
・海鮮丼は200円では食べられません。
・1300円をオーバーしています。
・電車代はICOCAを使えば問題ありません。
私は腰を据えて、G君にじっくりと説明しました。
G君の意見を聞き入れながら。
出来るだけ端的に。
G君の能力や価値観に合った言い回しで。
今回の活動で一番時間を割いたのはこの説明です。
G君はワーキングメモリーが低いのと、「ICOCAに入っているお金を使いたくない」というこだわりが頭の中を激しく駆け巡り、説明されたことが何度もリセットされました。
リセットされる度に、私は車を止めて説明をしました。
グループの活動では、これほどじっくり説明することはないでしょう。マンツーマンの利点ですね。
最終的には全てを納得し、活動を終えました。
別れ際、
「今回は色々困ったことがあったと思うが、この経験を次回にどう活かす?」
と尋ねたら、
「ケーブルを忘れない」と言っていました。
ケーブルを忘れたことによって、美味しい物をあまり堪能できなかったという印象が強く残ったようです。
G君は長期記憶(エピソード記憶)は良いので、きっと次回は忘れないでしょう。
向上心の強いG君にとって、いえ、私にとっても意義のある活動となりました。
ひだち教室では、生徒の「やってみたい!」という気持ちを大切にし、一般的には「それは大変だな~」「面倒くさい」と思われがちなことも率先して行っています。G君のようにグループよりもマンツーマンでの寄り添いを希望する生徒にも、出来る限り対応しています。
活動に関するご質問、お問合せもお気軽にどうぞ!
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