成功体験を積むための実践例
成功体験は大切である。それは誰もが知っている事ではありますが、発達障害のある子供は失敗体験の方が多いです。
障害特性、環境要因、人的要因等、様々な要因が複雑に絡み合い、失敗体験へと繋がります。
今回のお話は、失敗体験や叱られる体験、人から認められない体験を積み重ね過ぎて、自己肯定感が極度に低くなり過ぎた生徒(A君)のお話です。
どういう成功体験を積めば良いのか、参考になれば幸いです。
成功体験とは
成功体験と聞くと、特別な事をして成功すれば良いと考えている人は意外と多いようです。
例えば、ラフティングという非日常を体験して、最後まで落ちずに漕ぎきるといった事が挙げられます。
勿論、これはこれで成功体験になりますが、生徒の状態によっては、たいして効果がなかったりします。
私が担当するA君もそういった非日常を体験して喜んではいますが、効果が大してない感じでした。
では、どのような成功体験が必要なのか?そのためには、A君を分析するところから始まります。
子供を分析する
障害特性、生活環境、学校環境、人間関係、行動パターン、思考パターン、失敗するケース、成功するケース、出来る事、出来ない事。
これら情報を保護者から聞き取り、私自身がA君と関わる事で知りえた情報も加味して分析しました。
その結果、生活場面や生活スキルの部分で失敗体験に繋がっているパターンが多いことに気が付きました。
A君の場合は、日常生活内での成功体験が自己肯定感を高めるのに一番有効だと判断し、緊急の宿泊活動を行うことにしました。
今回はたまたま日常生活内での成功体験が有効でしたが、他の生徒の場合だと、無茶な体験をする事が有効でした。
2018年 緊急宿泊活動の紹介
今回の活動はとにかく成功体験にだけ焦点をあて、出来る事と出来ていない事のバランスを見極めながら指導します。
A君は電車に乗って、目的の駅に向かうことができます。あえて集合場所を駅に設定して、出来たという感覚を味わってもらい、次に出来るか出来ないか微妙なラインの課題をA君に課しました。
大津駅からひだち教室まで、一人で来る。一見簡単そうですが、A君にとっては少し難しいです。
事前(別日)に、私と一緒に駅から教室まで行く練習をしました。その際、ポイントとなる箇所を教えてスマホにメモをとってもらい、当日はそれを見ながら教室に来るという手はずです。
因みに、スマホにメモをとってもらったのは、字は書けるのですが、自分でも読めない字を書いてしまうことがあるため、得意なスマホを活用してもらって、少しでも精神的負担を減らすように配慮しました。
私は変装をしてA君が改札口から出てくるのを待ちました。メールで着いたという連絡があって、しばらくすると出てきました。
成功してくれと祈りながら様子を見ていると、まさかの教室とは逆の方向へ向かいだしました。
ヒヤヒヤしましたが、途中で違う道だと気が付き、引き返してきた時はホッとしました。しばらく、駅の中にある地図を見たりして、自分なりに考えていましたが、一向にスマホを見る様子がありませんでした。
30分様子を見ましたが、これはらちが明かないと判断し、メールで「今どこ?」というメールを送ってスマホを見るよう働きかけました。
すると、そこでスマホにメモをしたことを思い出したようで、メモを見ながら正しい道を歩き出しました。
バレないよう後をつけて様子を見ていると、自信なさげに辺りを見渡すことが時折ありましたが、大きなミスもなく、無事教室に辿り着きました。
通常は10分のところを50分かかって到着しましたが、時間は関係がありません。A君の中で大きな成功体験になったという事が肝心です。実際、私の顔を見た時は満面の笑顔をしていました。
教室に荷物を置き、一休みをしてから次の活動に向けて出発。
再び得意な電車を利用します。
京都駅から私と別れて(実際は別れたフリをして後を追っています)行動し、平安神宮を目指します。
一番危惧していたのは、烏丸御池で乗り換えられるかでしたが、そこはクリア。
順調に進み、東山駅で下りて平安神宮まで後少し!
しかし、違う所を曲がったり、途中でトイレに行きたくなって地下鉄に引き返したりと、なかなか進めませんでした。
何とか平安神宮に着き、後は参拝をして私の携帯に課題を終えた連絡をするだけ。
ところが、平安神宮の応天門をくぐると、ピタっと動かなくなりました。何が起きたか分からず、しばらく見守っていましたが、一向にその場から動く様子がなかったので、偶然を装ってA君に近づきました。
動かない理由を尋ねると、「お参りをする所が分からなかった」とのことでした。
多くの参拝者についていけばたどり着くと思うかもしれませんが、A君にはそういうイメージが出来なかったようです。
そもそも、参拝者がどの人か判別できないのも大きな要因です。
参拝する所が分からない場合は、宮司さんに聞くようにと教えました。
すると今度は、どの人が宮司さんか分からない言い出したので、宮司さんの特徴を教えました。
私からアドバイスを貰いつつ、課題を終えましたが、一人で課題をクリアできなかったため、成功体験とはなりませんでした。
表情を見ても、最初の課題の時と違って微妙な表情をしていました。
残念ながら、この課題はクリアとはなりませんでしたが、また同じ活動をして成功体験へと繋げたいと思います。
成功体験がないとは言わせない
平安神宮から教室に戻ると、表情が明るくなっていました。
というのも、実はA君の中で大きな成功体験を積んでいました。
普段は背中を曲げた状態で歩くクセがあるA君に、活動中は「背筋をピンと伸ばして歩く」「顔を上げて前を見て歩く」というお約束をしていました。
3分ごとに1得点が入るというシステムで、得点が50点以上になれば、私と一緒に好きな遊びをできるというご褒美です。
ご褒美へのモチベーションは当然ありましたが、3分ごとに私に「背筋伸ばしていたから1点」「顔を上げていたから1点」という、努力を認めてくれる(自分を認めてくれる)言葉を投げかけられる事が何より嬉しかったようです。
最終的には50点以上獲得し、成功体験を積む事に成功しました。
教室では、宿泊活動の際の服の整理方法についてを指導しました。
旅行先等で服の整理がまったくできず、ガチャガチャにしてしまいます。
保護者に何度も教えてもらうものの、上手くいかないということで、私が教えることになりました。
区別しやすいよう、ジップロックのような袋を用いて仕分ける方法を伝授。後はそれをしっかりと活かして、一人で片付けられるかです。
翌朝、見事一人で片付けることに成功。「一人で片付けられてすごい!」と、私に褒められるとニヤ~ととても嬉しそうにしました。
今回の1日目(2日目の朝含む)の活動では、成功体験3:失敗体験1という割合で終了。
外で活動をすると、失敗体験も成功体験もありますが、最終的に成功体験の方が多くして終えることが大切です。
そうすることで、「活動で成功体験がなかった」と思うことはほぼありません。
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