幼児の言葉の学習
発達障害のある子供を持った保護者からよく相談を受けるのは、言葉に関する相談です。
言葉が出るのが遅い、単語しか出ない、言葉のキャッチボールが成立しない、宇宙人語みたいのをずっと言い続けている、言葉の解釈がズレている等。
世の中には名詞プリント、動詞プリントを使った学習方法等がありますが、当教室では少し毛色が違います。
今回はそんな話をしたいと思います。
工作を通して学ぶ
当教室では、ソーシャルスキルトレーニングにしても、言葉を学ぶにしても、基本外での体験活動を重視しています。
しかし、常に外というのは難しいので、教室内で言葉の学習をすることもあります。
その時に利用するのが工作です。
工作は通常作ることを目的とするものですが、「言葉の工作」では出来上がりを重視するのではなく、製作過程に出てくる言葉を覚えてもらいます。
出来栄えは二の次で、言葉を覚えることを最優先にしたレッスンです。
覚えて欲しい言葉は状態像を踏まえて考える
どういう言葉を覚えて欲しいかを考える際、まずは子供の言語能力で考えます。
子供の言語能力が低いと判断した場合は、動詞を中心に言葉をチョイスします。言語能力が低い子供は動詞のレパートリーが少ないことが多いからです。
子供の言語能力が高い(または平均程度)、言葉の吸収率が高いと判断した場合は、言葉をチョイスせずにドンドン新しい言葉を教えますが、子供の中には難しい言葉を覚えている一方、こんな簡単な言葉が分からないのかと思うこともしばしばあります。
だから検査による言語能力だけで判断せず、子供の状態像をしっかりと把握した上で方向性を考える必要があります。
理解していない簡単な言葉が何かを見つけるのは難しいですが、市販の工作キットの説明書を読んで作ってもらうと、経験上発見しやすいと感じます。
また、説明書で使われている言葉は日常生活でも使われることが多いので、般化しやすい。
そんなこともあって、「言葉の工作」をする時は極力市販の物を使うようにしています。
今回レッスンをした生徒は言語能力が高めのタイプなので、説明書を自分で読んで作ってもらうことにしたのですが、作る過程でこういう解釈をするのかと思うようなことがありました。
理解して実行する
第一段階は、「ねんどをよくこね、丸めます」「ねんど板などの上に置き、手の平で軽く押さえ、ローラーで平らにします」。
ここで生徒は「軽く押さえ」の「軽く」がどういうことか理解できず、グッと力強く押さえました。
そこで、「軽くというのは、優しくってこと」と教えると、理解できました。
第二段階は、「押し型をねんどの上から、ねんど板につくまで手で押します」。
幼稚園でもねんどを使っているでしょうが、「押し型」という言葉は初めて聞いたようで、説明書を読んで妙に納得していました。
「ねんど板につくまで」という言い回しは難しかったようで、ねんどにキティちゃんの跡がつくまでと解釈したようです。
そのため、最初は軽く押した程度でした。一度失敗して、何か違うと気が付いた様子だったので、どういうことかを教えました。
第三段階は、「周りのねんどを取り除きます」。
「取り除く」の意味は理解できたようで、取り除く=取ると思ったようです。
ところが、「周りのねんど」という部分の解釈が違い、周辺に置いてあった他のねんどを手に取ったのです。
もし説明書に「押し型の周りのねんどを取り除く」という風にもっと具体的に書かれていたら、こういった間違いは起きなかったでしょう。
低年齢によって生じた間違いなのか、特性故の間違いなのかは現時点では判断できませんが、こういう間違いをした子供を他にも見た事があるので、少し気になりました。
第四段階は、「押し型を外します」「ねんどがとれない場合は、余ったねんどでボールをつくり、型に入ったねんどにくっつけて取り出します」。
説明文が長いのにも関わらず、問題なく理解して実行していたので、少し驚きました。
伝える練習
言葉は理解だけではなく、それを使えるようにならなければ意味がありません。
次は生徒が先生役になって、私が作れるように指示してもらいました。
一見、幼児には難しいと思うかもしれませんが、言うべき言葉が分かっていると意外とできます。
ホワイトボードに今回習った「こねる」「軽く押さえる」「ローラー」「押し型」「取り除く」が書いてあるので、それを見て意識しながら指示してくれました。
言いにくそうにしたらフォローするつもりでしたが、その必要はありませんでした。
上手く伝わったのが嬉しかったのでしょう、指示通り私が作れると手を叩いて喜んでいました。
次回のレッスンで言葉を覚えているか確認しますが、言葉の吸収率が高いタイプなので、おそらく覚えていることでしょう。
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